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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)650号 判決

控訴人 森武治

右訴訟代理人弁護士 増沢照久

被控訴人 鈴木アイ

被控訴人 鈴木興人

被控訴人 鈴木秀人

右三名訴訟代理人弁護士 石井幸一

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人訴訟代理人は、「(一)原判決を取消す。(二)原審昭和四〇年(ワ)第七二二号登記抹消事件の被控訴人鈴木興人、同鈴木アイの各請求を棄却する。(三)原審昭和四二年(ワ)第一、〇一五号反訴事件の被控訴人鈴木アイの請求を棄却する。(四)原審昭和四〇年(ワ)第七二一号家屋明渡事件につき、被控訴人鈴木アイ、同鈴木興人、同鈴木秀人は、控訴人に対し、原判決添付物件目録(一)記載の建物を明渡せ。(五)原審昭和四〇年(ワ)第七二三号所有権移転登記手続事件につき、被控訴人鈴木アイは、控訴人に対し、原判決添付物件目録(一)記載の建物について横浜地方法務局昭和三六年八月一日受付第二四、七八六号所有権移転仮登記に基く本登記手続をし、原判決添付物件目録(五)ないし(七)記載の各建物について各所有権移転登記手続をせよ。(六)訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示(但し、原判決六枚目表上段五行目、同一七枚目表下段末行の各「対等額」をそれぞれ「対当額」と訂正し、同二一枚目裏下段一〇行目の「(本人)」の次に「(第一、二回)」と加え、同二二枚目裏上段末行の「公正調書正本」を「公正証書正本」と訂正する。)と同一であるから、これをここに引用する。

(一)控訴人訴訟代理人は、次のとおり述べた。

(1)本件代物弁済予約の目的物件は、本件建物(一)ないし(七)である。すなわち、本件建物(五)ないし(七)は、本件建物(一)の附属建物であって、右目的物件中に包含されていたものである。

(2)控訴人の債権譲受ないし代物弁済の意思表示は、適法である。すなわち、本件建物はすべて戦前建築されたものであるばかりでなく、その一部は被控訴人らが居住し、その余は被控訴人らにおいて他に賃貸しているものである。それに、本件建物の借地については、現に地主から契約を解除されて建物収去土地明渡請求の訴を提起されている。かようなことから判断して、本件建物に原審認定のような価値があるものとはとうてい考えられないし、仮に相当の価値があるとしても、前記のような土地利用関係等の事情は当然考慮されてしかるべきである。又、控訴人は、本件債権譲受代金五九万七、六〇三円のほかにも、被控訴人らの懇願により、川崎商工に対して金五二万円を支払っており、その他の諸費用を含めて合計金一三〇万円以上の金員を被控訴人らのために支出している。右に加えて、被控訴人らにおいて昭和三八年二月(控訴人の昭和四六年一〇月二〇日付準備書面の四に「昭和三六年二月」とあるのは、「昭和三八年二月」の誤記と認める。)本件建物中三棟を控訴人に譲渡することを一旦承諾した事情もあり、これらの諸事実を総合して考察するときは、控訴人が被控訴人らの窮状に乗じて暴利を得るような主観的客観的事情は全然ないのである。

(二)被控訴人ら訴訟代理人は、次のとおり述べた。

控訴人の右(一)の主張については、いずれも、争う。

本件建物の敷地についての借地権は土地賃借権で、昭和三九年当時の残存期間は一五年である。被控訴人らは、川崎商工のために本件建物(一)ないし(四)について抵当権を設定した際、地主榎本義雄から借地権譲渡につきあらかじめ承諾書をとってこれを川崎商工に差入れた。

被控訴人アイ、同興人は、昭和三八年八月二七日、川崎商工からの借入金残債務の弁済に対して、その支払方法につき、川崎商工を相手方として川崎簡易裁判所に調停の申立をした。しかるに、控訴人は、右調停係属中に、右の事情を熟地しながら、川崎商工から本件抵当権及び代物弁済予約権とともに金四九万六、三一三円の債権譲渡を受け、被控訴人らに対し、間髪を入れずに予約完結権行使を通告して、直ちに、本件建物(二)ないし(四)につき所有権移転登記を経由した。

控訴人は、当時、被控訴人らが右の如く分割払につき調停の申立をし、窮迫しているのを熟知し、これに乗じて被控訴人らの所有にかかる建物の大部分をその借地権とともにすくなくとも合計金一、〇一二万八、六〇〇円はする高額の物件を僅か金四九万六、三一三円の金員で乗つ取ろうとしたものであって、控訴人のかかる行為は正に暴利行為で民法第九〇条に該当する。

(三)証拠〈省略〉

理由

一、次の各事実については、当事者間に争いがない。すなわち、

(1)被控訴人興人は、昭和三六年七月二九日、川崎商工から、金一〇〇万円、利息は日歩金四銭、弁済期は昭和三八年七月二九日限りとするほか、弁済方法については控訴人主張のとおりの約定で借受け、被控訴人アイは、即日、被控訴人興人の川崎商工に対する右債務の弁済につき、連帯保証をしたこと、

(2)被控訴人アイ及び被控訴人興人は、その際、さらに、川崎商工との間で、被控訴人興人及び被控訴人アイにおいて右(1)の債務を弁済期に完済しないときは、弁済に代えて本件建物(一)ないし(四)についての所有権を移転する旨の代物弁済予約をしたこと(なむ、控訴人の主張するように、本件建物、(五)ないし(七)も本年代物弁済予約の目的物件に含まれていたか否かの点については、後に判断する。)

(3)川崎商工は、昭和三九年三月五日、控訴人に対して、前掲(1)の被控訴人興人に対する貸金一〇〇万円の残元本金四二万二、〇四一円及びこれに対する昭和三八年七月三〇日から昭和三九年三月五日までの損害金七万四、二七二円右合計金四九万六、三一三円の債権(なお、このほかに、有体動産差押予納金四、〇〇〇円等控訴人主張の合計金一〇万一、二九〇円の債権も本件債権譲渡の対象となっていたか否かの点については、後に判断する。)を被控訴人アイないし被控訴人興人所有の本件建物(但し、本件建物(五)ないし(七)を除く。)についての本件抵当権、代物弁済予約権等とともに譲渡し、同年三月二五日川崎商工から被控訴人興人及び被控訴人アイに対して、その旨の通知がなされて、同通知はその頃右被控訴人両名に到達したこと、

(4)控訴人は、昭和三九年三月二六日、被控訴人興人及び被控訴人アイに対し、本件建物(但し、本件建物(五)ないし(七)を除く。)の所有権を代物弁済として取得する旨の意思表示をし、同意思表示はその頃右被控訴人両名に到達したこと、

(5)被控訴人興人、被控訴人アイ及び被控訴人秀人の三名は、本件建物(一)に居住してこれを占有していること、

以上の各事実は、当事者間に争いがない。

二、少なくとも、本件建物(一)ないし(四)が本件代物弁済予約の目的物件であったことは、前叙のとおり、当事者間に争いがない、控訴人は、本件建物(五)ないし(七)は本件建物(一)の附属建物であって、これらの建物も本件代物弁済予約の目的物件中に包含されていたと主張するので、まず、この点について判断する。

〈証拠〉を総合すれば、本件代物弁済予約契約が成立した昭和三六年当時から、本件建物(五)ないし(七)も本件建物(一)ないし(四)と同じく川崎市上丸子山王町一丁目八六〇番地ないし八六一番地を敷地として近接して建築されているが、いずれも互に独立した建物で、本件建物(一)ないし(七)中本件建物(一)は被控訴人らの自由に供されているが、その余はそれぞれ別個の賃貸借の目的に供されているのであり、控訴人の主張するような、本件建物(五)ないし(七)が本件建物(一)の従たる建物としてその附属建物をなしているとの事実は認められない。なお甲第二号証の五(昭和三九年九月一六日付建物調査書)には、本件建物(六)について「課税床面積七二坪三合二勺として別棟三棟と共に同一に評価されている」旨の記載があって、本件建物(一)について「課税床面積七二坪三合二勺」とした課税台帳登載証(甲第二号証の六)を援用してあるが、〈証拠〉によれば「 一に評価した」とは数棟の建物を一括して評価したというにすぎないのであって、必ずしも別棟の建物の付属建物であることを意味していないことが認められるから、甲第二号証の五、六は右認定の妨げとはならないし、又、原審証人宮能正一の証言並びに原審及び当審における控訴人本人の尋問の結果中認定に反する部分は前顕各証拠に比照して措信することができず、他に右認定を覆して控訴人の前記主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。従って、本件代物弁済予約の目的物件は本件建物(一)ないし(四)であって、本件建物(五)ないし(七)は右目的物件中に包含されていなかったものというべきである。

三、次に、昭和三九年三月五日における川崎商工、控訴人間の債権譲渡の額につき、控訴人は、前叙金四九万六、三一三円の債権のほか、有体動産差押予納金四、〇〇〇円等控訴人主張の合計金一〇万一、二九〇円の債権の譲渡をも受けたと主張し、これに対して、被控訴人らは右金四九万六、三一三円の債権のみであると争うので、この点について判断する。

〈証拠〉を総合すれば、川崎商工は、昭和三九年三月五日、控訴人に対して、川崎商工の被控訴人興人に対する本件貸金残元金四二万二、〇四一円及び昭和三八年七月三〇日から昭和三九年三月五日までの損害金七万四、二七二円の合計金四九万六、三一三円の債権を右債権額と同額の代金で譲渡したものであることが認められるところ、成立に争いのない甲第一四号証の二は、(1)有体動産差押予納金四、〇〇〇円(2)川崎商工、控訴人間の別件訴訟費用等金一万七、八五〇円、(3)川崎商工、被控訴人ら間の調停費用等金二万一、四四〇円、(4)川崎商工の代理人弁護士費用金三万八、〇〇〇円、(5)被控訴人アイ所有不動産競売予納金二万円、以上合計金一〇万一、二九〇円の費用につき、川崎商工と控訴人との間で、右債権譲渡とは別個の手続費用として処理するため、川崎商工において免除額金四万六、四二〇円を負担し、控訴人において任意に川崎商工に賠償した形式で残額金五万四、八七〇円を負担する旨の記載がなされているものであるから、右認定と抵触しないし、他に右認定を覆すに足る的確な証拠はない。

四、ところで、被控訴人らの独占禁止法違反の主張と民法第九〇条違反の主張とは選択的抗弁であるから、まず、民法第九〇条違反の主張について判断する。

(一)〈証拠〉を総合すれば、次の各事実が認められる。すなわち、(1)被控訴人興人は、昭和三六年七月二九日、被控訴人アイを連帯保証人として、川崎商工から金一〇〇万円を控訴人主張のとおりの約定で借受け、被控訴人アイ及び被控訴人興人は、即日、その所有にかかる本件建物(一)ないし(四)について、川崎商工のために抵当権を設定するとともに、右債務を弁済しないときは弁済に代えて本件建物(一)ないし(四)の所有権を移転する旨の本件代物弁済予約をしたこと、(2)ところが、被控訴人興人及び被控訴人アイは、利息を昭和三七年四月三〇日まで支払っただけで、約定どおりの債務の履行を怠ったため、弁済期限の利益を失って直ちに全債務の弁済をしなければならなくなり、昭和三八年二月初頃、川崎商工から七日以内に完済しなければ代物弁済取得又は抵当権の実行をする旨の通告を受けたこと、(3)そこで、そうした処分を免れるべく、被控訴人興人は、昭和三八年二月七日、川崎商工に対して、①同年二月末日限り残債務内金二八万円、②同年三月二八日までに残債務内金二四万円、③同年四月二八日から完済まで毎月二八日限り元金内金四万円及びその月分の利息を支払う旨を約し、分割弁済につき川崎商工の承認を得て金策に努め、当時被控訴人アイ所有の本件建物(五)の賃借人であり、親しく往来していた控訴人に懇願してその援助融資により、川崎商工に対して同年二月二八日本件貸金元金内入として右①の金二八万円、同年三月七日本件貸金元利金内入として右②の金二四万円をそれぞれ支払い、その結果、同年三月七日現在における本件貸金残元金は金五八万八、一六四円となったが、右③の同年四月分以降の元金割賦金及び利息の支払をしなかったため、同年五月川崎商工から前記承認を取消されたこと、(4)そして、川崎商工は、昭和三八年八月一六日、被控訴人興人に対する本件貸金残元金五八万八、一六四円、同年三月八日から同年七月二九日までの損害金三万三、八七七円の合計金六二万二、〇四一円の債権と同被控訴人に対する定期積金合計金二〇万円の債務とを満期日(同年七月二九日)に遡って相殺した結果、同年七月三〇日以降における本件貸金残債権は残元金四二万二、〇四一円及びその完済までの損害金となったとして、被控訴人興人に対し、その弁済方を催告したうえ、同年八月二一日被控訴人アイに対して有体動産差押の強制執行をしたこと、(4)しかし、被控訴人興人及び被控訴人アイは、当時、事業の失敗や病気等による生活逼迫のため、右本件貸金残債務の全額一時弁済が困難であったので、昭和三八年八月二七日、川崎簡易裁判所に川崎商工を相手方として債務支払方法協定の調停の申立をして、その後、同年八月三〇日強制執行停止決定、同年一一月二二日競売手続停止決定(同年九月、川崎商工から、本件建物(一)について任意競売の申立がなされた。)をそれぞれ得たこと、(5)ところが、川崎商工の飯島管理課長は、債権の回収を急ぐ余り、前叙調停事件係属中の昭和三九年三月頃、重田清重(本件建物(一)の二番抵当権者)や控訴人に対して、「本件貸金残債権を譲渡するが、譲受けてくれぬか。」との申入を何回か持込んだところ、重田は、被控訴人らが当時金に困っていて調停の申立をしていること等の事情を聞知して、これを断ったが、控訴人は、かねて右のような事情を知りながら、結局は、わずかな金額で本件建物を取得できることに思いをいたし、その目的で、飯島の右申入に応ずることとし、同年三月五日川崎商工から本件貸金残債権金四九万六、三一三円(その内訳は、前認定のとおり、残元金四二万二、〇四一円、昭和三八年七月三〇日から昭和三九年三月五日までの損害金七万四、二七二円)を同額の代金額で本件抵当権や本件代物弁済予約権等とともに譲受け、被控訴人興人及び被控訴人アイに対して、川崎商工からは同年三月二五日付書面でその旨の通知が、控訴人からは同年三月二六日付書面で本件建物(一)ないし(四)の所有権を代物弁済として取得する旨の意思表示がそれぞれなされ、いずれもその頃右被控訴人両名に到達し、しかも、本件建物(二)ないし(四)についてはいずれも右同年三月二六日付で所有権移転の本登記が経由されていて(なお、その頃控訴人から重田清重に対して本件建物(一)の二番抵当権を売ってくれとの申入があったが、同人はこれを断った。)その間、川崎商工ないし控訴人からは右被控訴人両名に対して何の話もなかったので、右被控訴人両名にとって右債権譲渡の通知及び代物弁済の意思表示は全く突然のことでいわゆる寝耳に水の状況であったこと、(6)ところで、昭和三九年三月頃における本件建物(一)ないし(四)の価額並びにその敷地の借地権の価額は合計ですくなくとも金七八六万円(内訳、借地権につき金四九三万八、〇〇〇円、本件建物(一)ないし(四)につき金二九二万二、〇〇〇円)を下廻るものではなかったこと、以上の各事実が認められ、原審証人飯島克、同宮能正一の各証言、原審及び当審における控訴人、被控訴人興人各本人の尋問の結果、原審における被控訴人アイ本人の尋問の結果中右認定に反する部分は前顕各証拠に比照して措信することができず、他に右認定を覆すに足る的確な証拠はない。

なお、控訴人は前認定の金二八万円と金二四万円との合計額金五二万円は控訴人において川崎商工に対して代位弁済したものである、と主張し、乙第一一号証の記載は控訴人の右主張にそのようであるが、前顕乙第二号証の一、二の受取証はいずれも被控訴人興人あてとなっており、しかも原審証人飯島克の証言によれば控訴人自身右各受取証の名宛をいずれも被控訴人興人とすることを承諾していることが認められるから、前顕乙第一七号証の記載等をあわせ考えると、すくなくとも、川崎商工に対する関係では右金五二万円の弁済者は前認定のとおり被控訴人興人であり、川崎商工においてもそのように処理したものと認めるべきである。

又、控訴人は、本件建物(一)ないし(四)の敷地の借地権について、被控訴人興人及び被控訴人アイは地主である榎本義雄から賃貸借契約を解除されて建物収去土地明渡請求訴訟を提起されているのだから、本件建物(一)ないし(四)並びにその敷地の借地権は価値のないものである、と主張するが、成立に争いのない乙第三九号証の記載によれば、右訴訟における紛争は控訴人が本件建物を代物弁済として取得する旨の意思表示をなした後に生じたものであることが認められるから、右主張は理由がない。

(二)上叙認定の諸事情を総合して考察するときは、控訴人は、被控訴人興人及び被控訴人アイが当時資金に窮して川崎商工に対する本件貸金債務の返済資金の捻出に苦慮し、何とかして本件目的物件を維持保有するためには、控訴人らに融資方を懇願する等せざるを得ないような窮乏状態にあり、他方、すこしでもそのような苦境を脱し得るような対策を講ずべく川崎商工を相手方とする債務支払方法協定の調停の申立をして現にその調停事件の係属中であることを知りながら、あえて、本件目的物件を自己の手中に収める目的で、川崎商工から本件貸金残債権金四九万六、三一三円をそれと同額の代金で譲受けたうえ、同残債権金四九万六、三一三円の代物弁済として、少なくとも、その約一五倍の金七八六万円の価値のある本件建物(一)ないし(四)ならびにその敷地の借地権を右被控訴人両名から取得せんとするものであって、控訴人のかかる行為は、他人の窮迫に乗じて正常な取引通念に照らして著しく均衡を失した価値を取得する暴利行為として、民法第九〇条に反する無効な法律行為というべきである。

(三)従って、被控訴人らの民法第九〇条の抗弁は理由があるから、原審昭和四〇年(ワ)第七二一号事件の控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

五、してみれば、控訴人の本件代物弁済取得の意思表示が有効であることを前提とする、原審昭和四〇年(ワ)第七二三号本訴事件の控訴人の請求は、その前提を欠くから、理由がなく、又、原審昭和四〇年(ワ)第七二二号事件及び原審昭和四二年(ワ)第一〇一五号反訴事件については、いずれも、その請求原因事実に争いがないところ、控訴人の本件代物弁済取得の意思表示が無効であること前判示のとおりであるから控訴人の主張は理由なく、被控訴人興人及び被控訴人アイの各請求は、それぞれ理由がある。

六、よって、右と同旨で、原審昭和四〇年(ワ)第七二一号事件及び同年(ワ)第七二三号本訴事件について控訴人の各請求をいずれも棄却し、原審昭和四〇年(ワ)第七二二号事件及び昭和四二年(ワ)第一、〇一五号反訴事件について被控訴人興人ないし被控訴人アイの各請求をいずれも認容した原判決は相当で、控訴人の本件控訴はいずれも理由がないからそれぞれこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 小林定人 関口文吉)

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